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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)134号 決定

抗告人 柴原登波

右代理人弁護士 山本博

荻原富保

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告代理人は、「原決定を取り消す。本件を東京地方裁判所に差し戻す。」との裁判を求め、抗告理由として主張するところは別紙「配当要求申立却下決定に対する即時抗告状」の「抗告の理由」の部分に記載のとおりである。

そこで考えるに、金銭債権に対する重複差押がなされた場合に、第三債務者が民訴法六二一条により債務額を供託してその事情を執行裁判所に届け出たのちは、配当要求の申立をなしえないものと解すべきである(最高裁判所昭和三八年六月四日第三小法廷判決、民集一七巻五号六五九頁)。なんとなれば、一般に各種財産に対する執行手続において差押財産の換価手続が終了し、配当すべき金銭が判明したのちは爾後配当要求は許されない(民訴法五九二条、六二〇条一項、六四六条二項)のであり、前記のように重複差押がなされた場合は、差押債権者は取立命令によっても第三債務者に対し自己への支払を請求することができず、第三債務者の前記供託により供託金の上に差押の効力は残るが、債権差押の手続は終了してしまい、爾後は配当手続が残るにすぎないからである。これを本件供託金取戻請求権についてみるに、債務者鈴木芳明が債権者原好作の金銭債権に基づく不動産仮差押の執行の解放金額として供託した供託金に関し債務者鈴木芳明の右供託金取戻請求権につき債権者木村己之吉が差押・取立命令を得、右命令が第三債務者たる国に対し昭和五四年九月二九日送達され、ついで債務者鈴木芳明の右供託金取戻請求権につき債権者原好作が債権差押・取立命令を得、右命令が第三債務者たる国に昭和五四年一二月一日送達され、これによって債権差押・取立命令が競合したため、第三債務者国は執行裁判所たる東京地方裁判所に対し昭和五四年一二月一三日民訴法六二一条によりそのまま供託を持続する旨の事情届を出した(これにより差押の手続は終了し、差押の効力は供託金取戻請求権の上に残り、爾後は配当手続が残ることになる。)ものであること、抗告人は昭和五五年二月七日に至って債務者鈴木芳明に対し債権ありとして同裁判所に対し本件配当要求の申立書を提出したことが認められる。

そうすれば、右配当要求の申立は前記事情届が裁判所に提出された昭和五四年一二月一三日後になされたものであり、前記説示に照らし、その許されないことは明らかである。抗告人の抗告理由は以上と異なる見解に立つものであって、採用することができない。その他には原決定を取り消すべき理由を見出すことができない。よって、抗告人の抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 鈴木重信 糟谷忠男)

〈以下省略〉

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